補聴器や人工内耳を利用しても生活環境によって聞き取りが困難なケースは多く、そんなときには補聴システムを用いることが効果的です。騒音が多い職場や学校などの教育現場で活用されるロジャーの特徴について専門店のスタッフがご紹介します。
近年障害者差別解消法により、企業や大学などが難聴者に対する合理的配慮のひとつとしてロジャーの設置例が非常に増えており、おそらく難聴者の積極的な社会参加にとってもロジャーは身近な存在になるでしょう。
ここではロジャーの効果や使用方法なども解説してまいりますのでご覧ください。
難聴によってコミュニケーションに悩んでいる人にとっては、騒がしい場所や会話する人が離れていたり、会議・講義などの広い会場または音が反響しやすい場所での会話は非常に難しいことです。
会話が聞き取りにくい状況でもより明瞭に聞き取りするためにロジャーはカンタンで非常に便利なものです。
また機能性難聴や聴覚情報処理障害などでロジャーが推奨されている方もいるようですね。
難聴になることでナゼ遠方の音声や騒音下での会話が難しくなるのかというのを解説していきましょう。
補聴器だけで聴力をカバーしきれないワケ
難聴になると補聴器や人工内耳で聴力のカバーをしていきますが、騒音下や反響する環境、会話者の声質や距離など特定の条件下では効果が薄れてしまい、聞こえのカバーができない状況もあるのです。
それには聴力の仕組みと補聴器の性能が関係しています。
難聴と聴力のしくみ
音が聞こえるということは耳で効率よく集音して脳で認識しています。
脳で認識するまでで、雑音や音声を分けて聞く働きをしてるので、騒がしい中でも必要な言葉を意識的に聞くことができるんですね。
しかし難聴になると集音できる距離や範囲が狭まり、難聴度合いに比例して音が聞こえなくなるだけでなく、雑音と音声を聞き分ける能力も下がってしまうんです。
ですから補聴器で聞こえやすい音量にしても、雑音と言葉が聞き分けにくくなかなかはっきりと聞こえないわけですね。
補聴器の性能について
補聴器の性能は高価なものほど上がり、性能が高いほど騒がしい中での聞こえを優位にしてくれます。
しかし本人が聞く力を超えることはできません。
またマイクの集音できる距離や範囲は最大で3m程度といわれており、距離が離れると効果が薄くなってしまいます。
遠方からの会話が聞こえにくいということは性能の限界ということも関係しているのですね。
ですからあなたがいま悩んでいる状況は、補聴器や人工内耳でもカバーしにくい状況と察しがつくことでしょう。
補聴器や人工内耳の性能にある限界を超えることができるものが補聴援助システムということなのです。
補聴援助システムについて
補聴器援助システムは、補聴器や人工内耳に外部マイクなどを利用して、特定の会話が困難な状況を改善するためのものです。
旧来はFM補聴器やFMシステムといってFM電波を利用したワイヤレスマイクが主流でした。
FMシステムは音質の劣化や混信など課題がありましたが、遠方で話者が話す講演会や会議、学校での講義や授業などでも効果的なものでした。
最近ではより混信が少なく、音質の劣化がなく直接的な聞こえを得ることができるデジタルFMやデジタルワイヤレス機器(ワイヤレス補聴器)が代表的な補聴援助システムです。
そのなかでも企業や大学での導入例が多いロジャーについて解説していきましょう。
ロジャーについて
ロジャーはスイスの補聴器メーカーのフォナックが販売している補聴援助システムです。
会話者が利用する”ワイヤレスマイク(送信機)”と、補聴器や人工内耳に装着する”受信機”で構成されております。
デジタルワイヤレス方式を用いて音声の送受信を行いますので、環境に左右されにくく明瞭な聞こえを実現することができるのです。
ロジャーの特徴
ロジャーには5つの特徴があります。
誰でも簡単に使える
補聴器や人工内耳のメーカーに関係なく、使うことができることです。
専用の受信機を対応する3つの方式で接続するだけで使用できます。
ただし3つの方式があてはまらない耳あな型の補聴器も存在しますから、仕様の確認をお忘れなく!
また煩雑な機器の接続方法もなくワンタッチでカンタンというところも、子供でも機械がニガテという人でも扱えるのがうれしいポイントです。
最大15~20mの有効範囲
マイクの有効範囲が広く、最大で20m離れた場所からでも直接補聴器で会話が再生されます。
広い場所で会話を聞かなくてはいけないケースでも安心ですし、学校の授業も安心です。
複数台の接続ができる
デジタルワイヤレスかつ周波数ホッピングという機能で混信が非常に少ない仕組みになっています。
一台のマイクでも接続できる受信機は無制限であり、教育の現場やシンポジウムのような場面で会話する人の声を多くの聞き手に届けることができます。
またマイクをはじめとした送信機の接続も複数台で使用でき、討論するような場でも有効性が高いですね。
会話の理解率が上がりやすい
音質の劣化が少ないデジタルワイヤレスで音声を届けるだけでなく、指向性と雑音よく機能で会話において必要のない雑音を抑え、聴こえやすい音量に自動調節してくれます。
ほかのメーカーとは一線を画すテクノロジーで、邪魔な雑音が少ない良質な音声を届けるからこそ会話の理解率が上がりやすいのです。
スマホやテレビなどの音声を送信する
ロジャー専用の追加機器を利用したり、特定のロジャーのワイヤレスマイクを利用している場合は、スマホとの接続で音楽鑑賞したり通話をすることができたり、テレビやオーディオからの音声を送信して明瞭な音声を楽しむことができます。
身の回りのサポートを可能にするのもロジャーの特徴ですね。
ではこのロジャーどのような機種があるかをご紹介しましょう。
ロジャーの機種
ロジャーを構成するワイヤレスマイクには3つの代表的なものがあり、受信機は3つの方式と、補聴器を必要としないがロジャーを利用するというときの受信機があります。
ここでは詳しくご紹介してきましょう。
ロジャーワイヤレスマイク(送信機)
代表的なロジャーワイヤレスマイクをご紹介します。
ロジャータッチスクリーンマイク
タッチパネルを採用し、設定の変更や接続状況を確認しやすいモデル。
指向マイクを3つ搭載し、首掛けによる一人の会話者の会話から、卓上に置いて複数人での会話も明瞭に集音ができます。
使用者が複数おり、グループでの話し合いがある教育現場などで活躍しています。
ロジャーセレクト
成人向けのスタイリッシュなデザインと、3つの指向性マイクが6方向から任意で選択した方向のみ集音できる選択型指向性も搭載したモデル。
首掛けモードと選択型指向性の卓上モード、さらにBluetooth通信も可能で、スマートフォン等での通話や音楽再生も可能な汎用性の高いワイヤレスマイクです。
ロジャーペン
ペン型の非常にコンパクトなワイヤレスマイク。
指向性マイクは1つで、手持ちで話者に向けることで集音するインタビューモードと首にかけるオンマイクモードがメインのマイクです。
卓上に置くことで複数人の音声を拾うことができますが、無指向性マイクとして利用することになり、他2モデルに比べて雑音が多いですね。
Bluetooth通信で、スマートフォン等での通話や音楽再生も可能です。
この3種類の他にもいくつかのロジャーワイヤレスマイクは存在しますが、今回は割愛させていただきます。
次では代表的なロジャーの受信を紹介していきましょう。
ロジャー受信機
補聴器や人工内耳を利用している場合に使用する受信機は3つの種類があります。
デザイン一体型(特定機種専用)
フォナックの耳かけ型補聴器や主要メーカー人工内耳の特定のモデルに利用できる一体型受信機。
電池カバーを換装することで本体と一体化したデザインになり、受信機を個別で持たなくてよい点とワイヤレス通信で伝送しても高音質を保つことができるのがメリットです。
ロジャーX(ユニバーサル受信機)
フォナック以外のメーカーの補聴器や人工内耳で、オーディオシューアダプタに換装した補聴器が直接接続できるユニバーサル型受信機。
3ピンコネクタに対応したワイヤレスアクセサリにも接続でき、一部の耳あな型補聴器やアダプタを利用できない小型耳かけ型補聴器でも利用することができます。
多くの補聴器に接続できる点や、一体型同様高音質を保つことができるのが特徴ですね。
ロジャーマイリンク(Tコイル)
テレコイル(Tコイル)を利用することができる補聴器や人工内耳ならどの機種でも接続できます。
補聴器の設定でTコイル用のプログラムを設定し、プログラム切り替えする必要がありますのでお忘れなく。
受信機としては安価で対応できる機種が広いことがメリットですが、磁気誘導を利用する関係上、音質の低下があり、電磁波など外的のノイズの影響をうけやすいです。
この3種類がオーソドックスな受信機です。
番外編:補聴器なしで使えるロジャーフォーカス
補聴器や人工内耳を必要としない軽度の難聴や機能性難聴、聴覚機能障害などでは補聴器+受信機の代わりにロジャーフォーカスで直接的に会話者の音声を聞くことができます。
聴力の低下がない難聴時の親がロジャーを体験するために利用したり、ASDの方に装用する例もあり注目されている受信機です。
音源再生に必要なアンプと受信機のみの設計で比較的安く入手できます。
このようなものがロジャーを構成している機器になります。
ロジャーの価格について
ロジャーの価格をまとめて紹介しましょう。
ロジャー送信機名 | 価格 |
タッチスクリーンマイク | 128,000円(税抜) |
ロジャーセレクト | 128,000円(税抜) |
ロジャーペン | 109,000円(税抜) |
ロジャー受信機名 | 価格 |
デザイン一体型ロジャー | 92,000円(税抜) |
ロジャーX | 92,000円(税抜) |
ロジャーマイリンク | 65,000円(税抜) |
ロジャーフォーカス | 56,000円(税抜) |
なおタッチマイクスクリーンまたはロジャーペンいずれか1台と、一体型またはロジャーXを利用する組み合わせは特別割引パックでオトクに購入できます。
ロジャー割引パック | 価格 |
---|---|
片耳パック | 178,000円(税抜) |
両耳パック | 258,000円(税抜) |
以上がロジャーについての解説でした。
続いてロジャーのペアリングや使い方についてです。
ロジャーの使い方
ロジャーの使い方はとても簡単ですが、2部に分けてご紹介しましょう。
ペアリングの方法と、使用時のモードについて解説しますね。
ペアリングは簡単
ペアリングはとても簡単です。
一体型受信機とロジャーXは補聴器や人工内耳の電源をONにした状態にしておきます。
マイリンクも同様に電源をオンにして待機させます。
ワイヤレスマイクの電源を入れた状態で、受信機の30cm以内に本体サイドや、裏面にある2つの円が重なったマークを一度押しましょう。
タッチスクリーンマイクはタッチパネル部分に接続のアイコンがあるので押しましょう。
これでペアリングが完了です、
ペアリング時にはLEDの点灯や表示画面で確認ができ、補聴器などからは接続したときのお知らせ音が流れます。
状況に合わせて機種やモードを使い分けよう
使用する状況に合わせてロジャーの複数のモードを使い分けましょう。
また機種によって得意なモードもあるので、特徴に合わせて選択すると効果アップです。
首掛けモード
対応機種 全機種
ロジャーとしてオーソドックスなモード。
会話者の首にかけることで、指向性や自動音量調整や雑音抑制機能により明瞭な音声を補聴器に送ってくれます。
全機種で同様の明瞭な音声の聞き取りを補助してくれます。
卓上モード
対応機種 全機種
卓上に置くことで複数人の会話音声を拾ってくれるモード。
機種により無指向性で雑音と音声を関係なく集音するものと、指向性によって雑音を抑え大きな声の話者を優先的に集音するもので別れます。
このモードが得意なマイクは、タッチスクリーンマイク・セレクトで強力な指向性によってより明瞭な音声を集音可能です。
インタビューモード
対応機種 タッチマイクスクリーン ロジャーペン
マイクを相手に向けて会話を集音するようにしたモード
対面者の会話が聞き取りにくい時に話者にマイクを向けて集音します。
このモードが得意なマイク ロジャーペン
ロジャーセレクトは、重力センサーにより常に上方向の音声を拾うようになっているためあまり向いていません。
Bluetooth利用モード
対応機種 ロジャーペン ロジャーセレクト
Bluetooh接続によって携帯電話・スマホ・PCなどの音楽を再生したり、通話を楽しむことが可能です。
またスマホのUDトークというアプリを利用することで、ロジャーで会話を拾った人の言葉が文字化され、聴覚と視覚両方を利用した会話の補助も可能です。
このようにあなたがそのような場面で、どのようにモードを使用するか考えると対応した機種を選択しやすくなりますね。
とはいえロジャーはすこし専門的な機器ですから、質問したいことや実際に試したいという気持ちもあるでしょう。
次ではロジャーについて相談するところについてお話しします。
ロジャーについて相談できる場所
ロジャーはより専門的な機器ですし、適切な機種選択と使い方の説明などが必要ですので経験値の高い販売員のいる専門店や専門店が立ち入っている病院の外来で相談するのがいいでしょう。
ただしフォナックの製品を扱っているお店でないと説明はおろか触ることもできません。
相談前には必ずロジャーの取り扱いがあるか質問してみましょう。
ロジャーを体験できるサービスもある
ロジャーを扱っているところでは、デモ機を利用してあなたの補聴器でロジャーを体験することができます。
レンタルして実際の環境で試すこともできるところもあるので確認してみましょう。
フォナック以外の補聴器を利用する場合は、Tコイルプログラムを用意する必要があるかもしれませんので注意しましょう。
またお店のほうでフォナックの補聴器と一緒に試させてもらえることもあるので問い合わせてみてくださいね。
さてロジャーについて紹介しましたが、実はロジャー自体は公的な福祉制度で購入できるケースがあります。
次は補装具の申請についてです。
補装具の申請について
ロジャーは、身体障害者手帳を持っている場合の障害者総合支援法で申請すると公的な補助受けることができます。
病院での判定が必要になるのですが、負担を抑えられるので手帳をお持ちの方は利用するのがいいでしょう。
また難聴でも手帳が発行できない就学児の支援事業として、中等度難聴児支援事業によって申請できる可能性があります。
ただし自治体によって対応はマチマチでることや特例での発行になるため、自治体への問い合わせする必要がありますね。
補装具の申請方法についてはこちらから
軽中等度難聴時支援について
まとめ
ロジャーの機種や特徴、使い方についてご紹介しましたが、お役に立てたでしょうか。
補聴器や人工内耳だけでは聞こえをまかないきれないシーンはたくさんあります。
補聴援助システムはそういった状況を打破する有効的な機器です。
また補聴器や人工内耳を利用していない人も含めて誰もが使えるのが魅力ですね
実際にためしてみることがその利便性や必要性について理解できることもあると思いますので、取リ扱いの店舗や病院を伺ってみることがいいでしょう。
障害者差別解消法において合理的配所というのが企業や教育機関に求められており、ロジャーをはじめとした障害を廃し、全員が社会参加できるような配慮が広がってきています。
難聴によるコミュニケーションの不備や学習・仕事などの滞りを感じている方は、ロジャーを利用することで改善できるでしょう。
さいごまでお読みいただきありがとうございました。